⽊地師 向出昭⼀
荒挽きされた木材から、繊細な木肌の器を削り出す
高校卒業後、木地師だった父に弟子入りし職人歴は39年になる。いくら経験を重ねても、うまくいかない日はいまだに訪れる。
「木の個性、道具の調子、人間の具合。すべて同じ日はない。だからこそ、いい木地が仕上がったときはうれしくて、やめられないんだ」
50~60本あるというカンナを使い分け、お椀、お皿、蓋物容器の棗(なつめ)などあらゆる形状のものを作り出す。細かい同心円の模様を作り出す「千筋」の技術は、山中の木地師の中でも随一だ。迷いのない動きで木面にカンナを当て、1日30~50個ほどの器を作るというが、「自信を持ってお客様に届けられるものしか出さない」のが向出さんの信念。
「納得いくものができなければそれが今の実力。自分で調べてやってみて、わからなければ職人仲間に教えてもらう。毎日が真剣勝負だね」
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水気をとるために積まれた器たち。工房内で1カ月ほどよく乾燥させる
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鋼(はがね)をボンベで熱し、金槌で打ち鍛えて成型し、自分用の刃物を作る
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刃先を薄くすると切れ味がよくなるという
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50~60本あるカンナは、刃先の大きさ、薄さ、丸みが1本1本すべて異なる
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木のかたまりから器の形状を削り出していくさまは、まさに職人芸。縦木取りした木材を挽くのに適した、「横座式」という全国的に珍しいろくろを使っている
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山中漆器の伝統的な特徴のひとつとして挙げられる加飾挽き。ろくろを使って細かい模様をつける
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加飾挽きに使用する道具。千筋を入れるときは、金ノコの刃をはさんだ二枚小刀を使う
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山中で活躍している木地師は約30人。定期的に集まり、お互いの技術や知識を交換し合っている