塗師 清⽔⼀⼈

粘りのある漆を、むらなく塗り硬化させる匠の技

天候、気温、湿度によって漆は変わる。完璧に塗れたと喜んだ翌日、漆が縮れて塗り直しになることも。「調子に乗るなと漆に怒られる」と清水さんは笑う。
高校卒業後、輪島漆芸技術研修所で5年間、基礎技術を習得し塗師の父に弟子入りした。職人の世界に入って戸惑ったのは求められる量とスピード。作品づくりに熱中してきた研修所時代とは違い「100の器を塗ったら100すべて納品するのが職人の仕事」と教わった。失敗するたびに、刷毛の長さが漆に合わないのか、気温や湿度が適していないのかと振り返る日々。工夫が器に現れる瞬間にのめり込んでいった。
山中に10人いる塗師の中で、清水さんは「変わり塗り」をする唯一の存在だ。和ろうそくの煤(すす)を漆が硬化しないうちにつける「叢雲(むらくも)塗り」、卵白を塗って漆の塗面に自然なひびを生み出す「ひび塗り」など、昔のやり方を調べては自分の技法に取り入れている。
「自然を手なずけて、すべてを同じように仕上げる。それが塗師の仕事の一番の面白さかな」

漆は1本の木から200ml程度しか採取できない貴重な自然塗料

約5分でひとつの器の上塗りを終える。作業の正確さ、スピードを上げる工夫の過程も、ものづくりの楽しみの一つだ

漆を塗ったあと、空中に舞うチリやほこりがついていないかを確認。塗面に付着したホシ(チリやほこり)は丁寧に取る

その日の気温や湿度によって漆の乾き具合が変わる。乾燥している日は湯を張った桶で湿度調節をおこなう

漆を塗るのは、黒髪の人毛を使った刷毛(はけ)。やわらかさに加えコシがあり、漆の粘りに最適だという

漆がムラなく硬化するよう10分ごとに回転する作りの風呂棚で、器を硬化させる。棚の中は温度23~25度、湿度70~75%に保たれている

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