蒔絵職⼈ うるしアート はりや 針谷絹代
小さな作品に彩られた、漆と金粉が生み出す蒔絵芸術
蒔絵を施したアクセサリーや小物を手掛ける「うるしアートはりや」の針谷さん。もともと絵を描くのが好きで、一時は美大を目指していたという。絵描きで食べていくのは難しいと夢を諦めかけたとき、家にあった棗(なつめ)の蒔絵に心奪われた。山中生まれ、山中育ちの針谷さんにとって蒔絵は身近な芸術品。「職人ならずっと絵を描いていける」と、高校卒業後に蒔絵職人のもとに飛び込んだ。
「当時、職人の世界に女性は珍しかった。面倒見のいい師匠に恵まれました」
同時期に弟子入りした今の夫(針谷祐之さん)と、切磋琢磨しながら技術を身につけ、20代で出産。2人の息子はともに伝統工芸士になり「うるしアートはりや」を家族で営んでいる。
茶道具だけに頼らず、アクセサリーなど新しい分野に蒔絵を施してきた。伝統は大事にしつつ変化を取り入れることで、山中漆器を後世につなげていきたいという。
「息子たちやほかの蒔絵師の作品を見て、自分にはない発想に刺激をもらいます。職人歴43年になるけれど、学ぶべきことはまだまだある。絶えず努力しながら、一歩ずつ前進していければ幸せです」
粘りのある漆液をつけて絵を描く
蒔絵筆には兎や鼠、狸などのやわらかい毛が使われている
漆で絵を描いたら、葦の茎を使った道具で金粉を蒔く。漆が接着剤かわりとなり、漆の部分だけ金粉が残る
漆は空気中の水分との化学反応で硬化する。湿度80%に保たれた湿し箱でしっかり硬化させる
完成したブローチ。繊細な仕事が美しい。
針谷さんは、2019年には全国伝統工芸士作品展において最高賞である衆議院議長賞を受賞し、蒔絵職人としての高い評価を得ている
蒔絵の下絵と完成品。ふくろうをあしらった作品を多く手掛ける針谷さんのお気に入りの作品。
1981年に針谷祐之さん、絹代さんが夫婦で設立した蒔絵工房「うるしアートはりや」。息子の針谷崇之さん、祥吾さんも加わり、親子4人で蒔絵作品を製作している